| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-084 (Poster presentation)
イノシシ(Sus scrofa)の農業被害対策において、捕獲に偏った対策を行う地域ほど
①警戒心の低い幼獣のみの捕獲や、②取り逃がして本来捕獲すべき成獣が捕獲檻を警戒し、捕獲が困難となる状況に陥っている。
そこで、本来の捕獲対象である加害イノシシを効果的に捕獲するため行動学的な特徴や生態を押さえた技術開発を行った。
従来の捕獲檻は開口部に金属製の扉を落下させて捕獲を行うが、捕獲を免れた個体は捕獲檻の危険性をすぐに学習し、警戒心を高めて、落下式扉の開口部から侵入することが少なくなる。しかし、あえて侵入口を閉鎖した状態にすると捕獲檻の中のエサを摂食しようとし、侵入口を自ら探索する行動が見られた。
これらの行動特性を利用し、イノシシが入口の扉を押す、引っ張る等の行動をとることで、侵入口が開くように扉を設置したところ警戒心の強い個体を捕獲檻に侵入させることができた。なお、試験を行った試験場敷地内は、豚熱感染防止の観点から捕獲後の「止め刺し」作業ができず、捕獲個体データの収集は行わなかった。
一方、香川県小豆島町でも同様に加害イノシシの捕獲に苦慮していたことから、香川県小豆農業改良普及センターの協力のもと、小豆島町にて同捕獲檻を用いた捕獲実証試験を行った。初年度はイノシシの出没状況が不安定であり、捕獲には至らなかったが、翌年にはメス成獣を捕獲することができた。また、止め刺しを行った日の夜に別個体がすぐに捕獲檻に近づき、誘引餌を摂食する行動が確認された。落下式扉の捕獲檻と比較すると警戒心は高まっておらず、安全かつ効果的に加害イノシシを捕獲できることが明らかとなった。現在も捕獲とモニタリングを継続している。