| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-085  (Poster presentation)

海流が外洋性サメの移動パターンに与える影響:黒潮に着目して【A】【O】
The Influence of Ocean Currents on the Movement Patterns of Oceanic Sharks: Focusing on the Kuroshio Current【A】【O】

*加藤修衣(総合研究大学院), 江偉全(台湾農業部水產試驗所), 徳永壮真(総合研究大学院), 渡辺佑基(総合研究大学院)
*Norie KATO(SOKENDAI), Wei-Chuan WEI-CHUAN(Fisheries Research Institute), Soma TOKUNAGA(SOKENDAI), Yuuki WATANABE(SOKENDAI)

【背景・目的】外洋性サメ類は海洋生態系において重要な役割を果たす一方、一部の種では乱獲や環境変化により個体数が減少している。これらの適切な管理と保全のためには、長期的な回遊パターンとその決定要因を解明する必要がある。本研究では、日本近海を含む北西太平洋における外洋性サメ類の行動生態を解明するため、サメの水平方向の行動データと海流の関連性を定量的に解析した。
【材料・方法】2024年に台湾沖でフィールドワークを実施した。ヨシキリザメを含む計4個体に位置情報を記録する記録計と深度、水温、照度を記録する記録計を装着し、行動データを取得した。さらに、共同研究者が収集した5種9個体(アオザメ、バケアオザメ、アカシュモクザメ、ハチワレ、ジンベエザメ)の行動データを解析に利用した。取得データから状態空間モデルを用いて位置情報を推定し、移動方向と海面流速の関係を解析した。また、移動方向と海流方向の角度差を算出し、サメが海流に流されているか逆らっているかを判定した。
【結果】13個体から得られた合計1512日間のデータを解析した。全ての種が幅広い流速域を経験しており、海流に流されている状態と逆らっている状態の両方が観察された。また、海面流速が遅いときに、海流に逆らう傾向が見られた。種ごとに比較すると、ヨシキリザメを除く5種は、データ期間の半分以上で海流に乗っていた。一方、ヨシキリザメは半分以上を海流に関係なく移動していた。
【討論】外洋性サメ類が移動時に海流の遅速に応じた移動が観察され、移動のエネルギー効率を高めている可能性を示唆する。また、多くの種が海流を積極的に利用する傾向がある一方、ヨシキリザメは海流に依存せずに移動しており、水平方向の行動では海流の影響を受けにくいことが明らかになった。本研究の結果は、外洋性サメ類の回遊パターンの理解を深め、種ごとの特性に応じた保全や資源管理の基盤を提供するものである。


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