| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-086  (Poster presentation)

刺激提示時の行動と心拍数の変化から探るアカウミガメの行動睡眠【A】【O】
Behavioral sleep of loggerhead sea turtles explored through behavior and heart rate in response to stimuli【A】【O】

*青田幸大, 阪井紀乃, 齋藤綾華, 坂本健太郎(東京大学)
*Kodai AOTA, Kino SAKAI, Ayaka SAITO, Kentaro Q. SAKAMOTO(The University of Tokyo)

 睡眠は、エネルギー節約や免疫系の維持などの機能を持ち、動物にとって根源的な要求とされている。一方で、睡眠は休息とは異なり、周囲への反応性の低下を伴うため、野生動物にとって生態学的なコストとなり得る。そのため、野生動物は睡眠をとる際に適切な環境やタイミングを選択し、睡眠と覚醒の時間配分も状況に応じて調節する必要がある。こうした可塑性の把握は、睡眠のコストや適応的意義を理解するうえで重要であるが、脳波が微弱な動物では睡眠と休息の区別が難しい。そこで本研究では、ウミガメ類の睡眠検出のための行動と生理指標の探索を目的に、刺激に対する反応性を加速度と心電図の変化から調べた。
 野生のアカウミガメ6個体を一時的に水槽で飼育し、心電図・加速度記録計を背甲に、振動モータを包埋した刺激提示装置を頭部に装着した。行動状態を覚醒、休息(1分未満の静止)、睡眠様状態(5分以上の静止)に分類し、それぞれの状態で刺激を与えた。その後の行動と生理応答を調べるために、加速度データから標準偏差を求め運動強度の指標とし、心電図データから心拍数を求め生理状態の指標とした。
 運動強度は、すべての行動状態で刺激直後に上昇したが、その程度や持続時間は異なり、睡眠様状態では上昇が最も小さく、刺激前のレベルに戻るのも最も早かった。心拍数は、休息状態では刺激直後に最大2倍となり、ほとんどの場合でその状態が維持された。それに対し、睡眠様状態では刺激直後に休息と同程度まで心拍数は上昇したが、数十秒後には刺激前の低い心拍数にまで戻る場合と、休息同様に高い心拍数が維持される場合が確認された。このような行動変化なしに高い心拍数が維持される現象の発見は、一見睡眠と思われる休息の存在を示唆する。本研究では睡眠様状態のときに反応性の低下傾向がみられたことに加え、行動と心電図データの併用によって、睡眠と休息をより正確に区別できる可能性を見出した。


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