| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-087 (Poster presentation)
生物の中には集団内で性比の偏りが見られるものがある。哺乳類の一部では、ハレムや逆ハレム、バチェラー集団の形成により、繁殖期における集団内の雌雄の偏りが調べられている。また、アリやハチなどの社会性昆虫では、繁殖個体と非繁殖個体の性比が極端に偏ることが知られている。
甲殻類では、繁殖期にオスがメスを誘引するためにレックというオス偏重の集団を形成するが、メス偏重になる種が存在する理由については未解明な点が多い。
潮間帯に生息するイワガニ上科に属するトゲアシガニ(Percnon planissimum)は集合する習性があり、集団の性比がメス偏重になっている可能性が考えられた。そこで、野外集団の性比の偏りを確認し、偏った性比が維持されるメカニズムを解明することを目的とした。具体的には、野外にて、春、夏、冬に集団性比の確認、サイズ測定、卵の有無、卵の発達段階を調べた。その結果、春と夏には集団の性比がメスに偏っていたが、冬には性比がほぼ1:1だった。卵を保持するメスは季節を通して観察されたが、夏に最大であった。また、単独でみられる個体はオスが多かった。これらの結果から、繁殖を目的としてメスが集団を形成し、少数のオスがその集団を防御している可能性が考えられた。
集団が形成されるメカニズムを明らかにするために、雌雄間での攻撃性の違いを室内で調べた。その結果、オスからメスへの攻撃頻度が高かった。以上のことから、闘争というコストがないことでメスが集合しやすく、メスはオスを選択しない可能性、鉗脚の大きさの違いによるオス間の順位付けの存在が考えられた。一方で、オスはメスを選択している可能性がある。現在のところ、メスが集団を形成することで、少数の大型オスを引き寄せ、メス偏重の集団が形成されているのではないかと考察する。