| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-088 (Poster presentation)
エネルギーを多く消費する複雑な捕食行動は、環境や状況に応じて効率的に形成される可能性がある。一部の鳥類では、硬い殻の餌を高い位置から落とし、殻を割って捕食する。たとえばカラス類では二枚貝などの餌を落として捕食する際、小型の餌よりも大型の餌を選び、獲得できるエネルギーを最大化する。カラスの採餌行動に関する研究では、適応的な餌選択や意思決定が明らかになっている。近年、ハシボソガラス Corvus corone がスクミリンゴガイ Pomacea canaliculata を捕食していることが判明し、小型の貝が生息している水田では直接嘴で殻を割って、大型の貝が多い溜池では貝を落として捕食していることが分かった。しかし、同一の採餌場における餌のサイズによる捕食行動の変化は調べられていない。そこで、本研究では香川県丸亀市の八丈池で、ハシボソガラスがスクミリンゴガイのサイズに対して捕食行動を変えるのかを調べた。
2023-2025年冬季に、マークを付けた休眠状態のスクミリンゴガイ173個体(34-74 mm)を対象に、湿重を測定した上で、10-50個体ずつ落水中の池周辺の土上に静置し、トレイルカメラで記録した。その4時間前後に、1)捕食されなかった貝、2)その場でカラスに捕食された貝、3)その場から持ち去られた貝(追跡できた場合は他の場所で落とされていた)に分けて記録した。その結果、湿重は、捕食されなかった貝、持ち去られた貝、その場で捕食された貝の順に重かった。以上より、カラスが選択した貝は中型から小型であり、選択を避けるのは殻が硬く捕食が難しい大型の貝であることが予想された。カラスが落として捕食した貝は、落とすと殻が割れやすい重い貝であり、その場で捕食された貝は、簡単に直接嘴で割ることができる比較的軽い貝であることが考えられた。したがって、捕食の際にカラスは貝サイズを選択し、サイズによって捕食行動を変化させ、適応的に振舞っていることが示唆された。