| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-089 (Poster presentation)
高い回遊性をもつアカウミガメは夏季に三陸沿岸海域に採餌のため来遊し、水温が低下する冬季に南下することが知られている。しかし近年、12月に三陸沿岸の定置網で混獲されるなど、従来と異なる事例が報告されている。三陸沖では海洋熱波により近年水温が大幅に上昇しており、ウミガメ類の生息域や海域ごとの滞在期間が大きく変化している可能性がある。アカウミガメでは水温上昇を避けるように回遊経路や滞在深度を変化させる、または経験する水温が上昇していることが考えられる。そこで本研究では、2005年以降の混獲データと2009年以降の人工衛星発信機による最長で1年を超える長期回遊・潜水行動データを組み合わせることで、三陸沿岸に来遊する個体数と回遊経路に対して年変動する水温が及ぼす影響を調べた。
混獲調査から、2014年以前と比較して2015年以降では来遊時期のピークが8月上中旬から7月中下旬へと早期化している傾向が見られた。早期化は2010年までとそれ以降を比較した先行研究ですでに示されていたが、早期化の開始時期は2010年よりも遅い可能性がある。人工衛星発信機による回遊追跡では計58個体の内、北海道への来遊記録があった7個体を主に解析した。来遊記録は2010年から2023年まで広く存在しており、水温上昇による分布域の北上傾向は見られなかった。また個体ごとの経験表層水温にも顕著な年変動は見られなかった。一方、28℃を超える比較的高い水温を一時的に経験した個体では、その時期に3m以深に滞在する1日の時間割合が高くなる傾向が見られた。水温上昇に対する回遊経路変化の検証にはさらなる解析が必要だが、アカウミガメは水温上昇に応じて北上する時期を早めている可能性がある。また北上時期の早期化により経験する表層水温は基本的に上昇していないことが考えられた。一方、一時的に経験する高水温に対しては鉛直方向への移動によって表層の高水温帯を回避している可能性が考えられる。