| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-091 (Poster presentation)
動物界における化学的コミュニケーションは、進化の過程で重要な役割を果たしてきた。その中でも、特に昆虫は化学物質を用いた高度なコミュニケーションを進化させている。これらの化学物質の進化に関する仮説の一つとして、前駆体仮説が提唱されている。この仮説では、元来異なる文脈で使用されていた化学物質が、同種間で検出されるようになり、次第にコミュニケーション手段として進化すると考える。例えば、防御分泌物が同種間でのシグナルとして検出されるようになることで、フェロモンとしての役割を獲得した可能性がある。
オサムシは基本的に単独性の昆虫であるが、時に集合性が見られる。また、外敵に対して防御分泌物を放出することが知られているが、これがフェロモンとしての機能を持つ可能性については、ほとんど研究されていない。そこで本研究では、前駆体仮説に基づき、オサムシが防御分泌物をフェロモンとして利用している可能性を探ることを目的とした。具体的には、防御物質が同種個体の集合を誘導する集合フェロモンとして働く可能性と、危険を知らせる警報フェロモンとして働く可能性を検証した。
オサムシの防御分泌物への選好性を調べるために、環境を模した実験装置を作成し、オオオサムシ亜属の防御物質の主成分であるメタクリル酸と、対照として水を提示して、それらへの訪問回数と滞在時間を調べた。解析の結果、高濃度のメタクリル酸に対しては、誘引も忌避もみられなかったが、低濃度メタクリル酸には誘引される傾向が見られた。これは、集合フェロモンの進化に関する前駆体仮説を支持する結果である。しかし、サンプル数が少ない事や、実験時期が繁殖期間の終盤だった点で、オサムシの本来の行動が観察できていたのかに疑問が残るため、より適正な時期により多くのサンプル数を集める必要がある。