| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-093 (Poster presentation)
都市への人口集中が加速する都市域では、さまざまな公害が生まれてきた。大気汚染や騒音などの典型七公害がその代表的な例である。一方、新たな公害として、夜間人工光や電磁波などが問題視されるようになってきた。最近では、データ通信量の急増を背景に、都市部では、モバイル通信やWi-Fiで使用される極超短波やミリ波を含む高周波の電磁波の利用が拡大している。これらの電磁波のヒトへの影響は小さいと考えられているものの、他の生物への影響は未知である。本研究では、オウトウショウジョウバエをモデルとし、昆虫類に対する高周波の電磁波の影響と電磁波の影響の受けやすさの個体群間変異を明らかにすること目的とした。まず、都市部の14地点と郊外の8地点に由来する単雌系統について、2〜5日齢の雌雄の成虫を得た。これら成虫を2.4 GHzと5 GHzの周波数の電波を発するWi-Fiルーターあるいは電源を入れていないWi-Fiルーターを導入したインキュベータの中に入れ、24時間の日周活動パターンを個体ごとに測定した。いずれの測定環境においても、暗期に活動量が著しく低くなり、夜明けと日没前後の時間帯に活動量が高くなるショウジョウバエにおいて典型的な二峰性の日周活動パターンが観察された。ただし、雌雄ともに、電磁波曝露により都市個体群でも郊外個体群でも夜間における活動量は増加し、睡眠時間は減少していた。一方で、日中の時間帯における電磁波曝露下での活動量や睡眠時間は、雌雄や個体群間によって異なっていた。例えば、雄の日中の睡眠時間は、都市個体群で増加し、郊外個体群で減少していたが、雌は反対の反応を示す傾向が見られた。これらの結果は、電磁波曝露により夜間の睡眠は一貫して妨害されるものの、日中における睡眠リバウンドの程度は雌雄や個体群で異なることを示している。個体群間での電磁波曝露に対する反応の差は、進化的な差異であると考えられるものの、その適応的意義は不明である。