| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-094 (Poster presentation)
進化理論では、模様にバリエーションを持つ種や個体群は持たない種や個体群と比べて、より高い集団パフォーマンスを示すと推測されている。これは異なる模様ごとに異なるニッチを使用するniche complementarity等のメカニズムによってこれまで説明されてきた。本研究では 個体間変異の大きい模様が個体識別に用いられることで、集団内において競争コストの低下をもたらし、集団パフォーマンスを向上させるという新たなメカニズムを考えた。
サケ科魚類はパーマークや黒点などの模様の個体間変異が大きい。また、視覚を用いた個体識別を介したヒエラルキー形成を行うことで、集団内の攻撃回数を減少させることが示唆されている。加えて、サケ科の一部の種では模様を持つ有斑個体のみならず、模様を持たない変異体の無斑個体を実験に利用でき、模様変異を持つ集団と持たない集団のパフォーマンスを比較できる。
本研究では、ニジマスの有斑個体で構成される有斑集団と無斑個体で構成される無斑集団を飼育し、それぞれの集団における攻撃回数と成長量を比較することで、模様変異が集団にもたらす影響を検討した。仮説が正しければ、有斑集団の方が無斑集団よりもヒエラルキーを作りやすいため 集団内での攻撃回数が減少し、集団全体の成長量も高くなると考えられる。
実験の結果、有斑集団と無斑集団の間に攻撃回数と成長量の有意な差は見られなかった。さらにヒエラルキー形成時にみられる時間経過に伴った攻撃回数の減少傾向も両集団で見られなかった。
以上の結果から個体間変異の大きい模様は集団内の競争コストの低下をもたらし、集団パフォーマンスを向上させるという仮説は支持されなかった。また、両集団におけるヒエラルキーの形成度合いは同程度であり、ニジマスの模様は個体識別に対する影響力が弱い可能性が示唆された。