| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-095  (Poster presentation)

首輪カメラデータの機械学習による周辺環境分析:草原を遊動するモウコガゼルの事例【A】【O】
Surrounding Environment Analysis Using Machine-learning of Camera Collar Data; A Case Study of Mongolian Gazelles Migrating through a Grassland【A】【O】

*永谷黎(京都大学), 小山里奈(京都大学), 伊藤健彦(北海道立総合研究機構, 麻布大学), 多田陸(京都大学), UUGANBAYARMunkhbat(WWFモンゴル), CHIMEDDORJBuyanaa(WWFモンゴル)
*Rei NAGAYA(Kyoto University), Lina KOYAMA(Kyoto University), Takehiko ITO(Hokkaido Research Organization, Azabu Universit), Riku TADA(Kyoto University), Munkhbat UUGANBAYAR(WWF Mongolia), Buyanaa CHIMEDDORJ(WWF Mongolia)

動物装着カメラは追跡が困難な個体の経験環境を記録できるが,大量のデータを解析するためには,統計解析が可能なデータへの変換と画像処理の効率化が不可欠である.そこで,モンゴルの草原から砂漠地帯に生息し,長距離を遊動する有蹄類モウコガゼルを対象に,首輪カメラを装着した個体周辺の植物や積雪の定量的な評価を自動で行う手法を開発し,周辺環境がモウコガゼルの空間利用や移動に与える影響の解明を試みた.2019年と2023年に,個体前方を撮影するカメラとGPSを搭載した首輪をモウコガゼルに装着した.日中,1時間ごとに15秒間の動画を記録し,1年後に首輪を自動脱落させてデータを回収した.複数の機械学習モデルを段階的に適用することで,評価に使用可能なフレーム・領域を抽出し,領域内の画素を分類した.この結果をもとに,植物の質を表す植生指数,対象領域内におけるその分散,植物量や積雪量を表す植物被度・積雪被度を周辺環境の評価値として算出した.短期的な移動や季節内での環境選択など複数の視点でモウコガゼルの空間利用について分析を行った.1時間当たりの移動距離は,直前に経験した周辺環境の影響を受け,特に冬季においては積雪が多いと移動距離も伸びる傾向があった.夏季の長期滞在地と通過しただけの場所を比較すると植物被度が同程度の場合,植生指数は長期滞在地の方が高く,より質の高い食物のある環境を選択していた可能性がある.また追跡開始直後では個体ごとに周辺環境に大きな差はなかったが,冬季に死亡した個体は夏季まで生存した個体に比べ,死亡直前に植生指数の分散が大きい環境を利用しており,経験する環境に違いがあったことが明らかになった.これらの結果は,モウコガゼルは経験した環境の影響を受けて移動や空間利用を変化させる可能性と,首輪カメラの生態研究における有用性を示した.データの処理を効率化することでさらなる議論の発展への貢献が期待できる.


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