| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-101  (Poster presentation)

卵に砂をかける:砂地に住むハゼの特異な卵保護生態【A】【O】
Covering eggs with sand: The unusual habit of a sand-dwelling goby to guard their eggs【A】【O】

*小林龍太郎(大阪公立大学), 長井勇樹(大阪公立大学), 矢野維幾(ダイブサービスYANO), 安房田智司(大阪公立大学)
*Ryotaro KOBAYASHI(Osaka Metropolitan University), Yuki NAGAI(Osaka Metropolitan University), Korechika YANO(DIVE SERVICE YANO), Satoshi AWATA(Osaka Metropolitan University)

 ヒトやチンパンジーなどの社会的動物は他者が何を見ているのか(視点)を推測することで、他者の行動を予測できる。この能力は、複雑な個体間関係を築く動物に必要だと考えられるが、魚類での検証例はない。本研究では、魚類の中でも特に他者の視点を推測している可能性があるサキンハゼHazeus ammophilusに注目した。南西諸島の開けた砂地に生息するサキンハゼは、二枚貝や落ち葉などの上面に産卵し、卵が外界に露出した状態で雄が保護するという特殊な生態を持つ。また、卵保護をする雄は産卵床に砂を被せるという興味深い行動も知られている。この卵隠蔽行動が卵捕食者に対する防衛行動であるなら、サキンハゼは卵捕食者の視点を推測し、状況に応じて卵を隠蔽している可能性がある。本研究では、サキンハゼが「卵捕食者の視点を推測する能力」を持つことを検証する基盤となる「サキンハゼがどのような状況で産卵床に砂をかけるか」を明らかにすることを目的とした。2ヶ月間の西表島での潜水観察により、サキンハゼの卵捕食者は主に同種他個体であることがわかった。また、観察期間中には卵保護雄が産卵床に頻繁に砂を被せたり、払いのけたりする姿が観察された。もし、この砂かけ行動が卵捕食を防ぐ機能があるとしたら、本行動は周辺の他個体の距離や動き、視線に影響を受けると考えられる。卵保護雄の周りにコの字型の囲いを設置することで、他個体の接近を1方向のみに制限し、他個体の距離や動き、視線と砂かけ行動の頻度を調べた。その結果、予測通り、卵保護雄の砂かけ行動は周囲にいるハゼの個体数の増加により促進された。本発表では、サキンハゼの砂かけ行動の機能とそれに伴う認知能力について議論する。


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