| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-102 (Poster presentation)
動物の集団行動は多くの研究者を魅了し、それを生み出す個体の行動原理について盛んに研究がなされてきた一方で、その背後にある神経遺伝学的基盤は明らかでない。我々はこれまで、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)を対象に、周囲の他個体の視覚的手がかりが恐怖反応を軽減するという現象に着目し、その遺伝基盤について研究を行なってきた。一方で近年、近縁ショウジョウバエ種間でもこうした個体間相互作用に違いが存在することが明らかとなっている。特に、タカハシショウジョウバエ(D. takahashii)は他個体に対する反応性が低く、この2種の間で社会的相互作用に関する神経遺伝学的基盤に違いが生じている可能性がある。そこで本研究では、トランスクリプトーム解析により、社会的相互作用や視覚刺激による脳内遺伝子発現の違いを種間で比較し、それらに関連する遺伝基盤を探索することを目的とした。まず、両種について野外集団由来の遺伝的に多様な複数系統を対象に、単独個体あるいは6個体の集団に対して、捕食者を模した視覚(Looming)刺激を与える実験を行なった。D. melanogasterでは単独時に比べ集団時にFreezing時間の低下が見られたのに対して、D. takahashiiではそのような差は見られず、種間で有意に異なる結果となった。次に、視覚刺激や社会的相互作用の有無の各条件で実験を行なったのち、両種の頭部からRNAを抽出し、発現量解析を行なった。その結果、両種で視覚刺激の有無に応じて発現量が変化していた遺伝子としてHr38遺伝子、視覚刺激時において社会的相互作用の有無による発現量の変化が種間で異なっていた遺伝子としてHr4遺伝子が検出された。本発表では、当該遺伝子変異体を用いた現在進行形の機能解析と合わせ、これらの遺伝子の機能的意義について議論する。