| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-103 (Poster presentation)
ヤモリの仲間は、 音声や匂い物質・視覚ディスプレイ等、幅広い感覚系を用いたシグナルを種内コミュニケーションに利用する。多くの動物では、暗く視覚情報が利用しづらい夜間は、 一般に音声や匂い物質をシグナルとして用いるが、 夜行性のヤモリ類の場合は暗がりでも色を知覚する能力をもつため、 体色なども視覚シグナルとして利用可能だと考えられる。 特に夜行性ヤモリ類の一種であるニシヤモリは、他の同属種と比較しても、際立って鮮やかな黄色を腹側に呈色するため、 体色を種内コミュニケーションに利用している可能性を検証するのに適した種である。 そこで本研究では、ニシヤモリにおいて、(1)種内の体色の個体差が各個体の競争相手や配偶者としての質を示す指標となる可能性と、(2)目立つ体色によって他個体の存在を認知しやすくなることで種内コミュニケーションがより円滑に進む可能性について行動学的・形態学的側面から検証した。
はじめに、体色の鮮やかさと、 肥満度や咬合力などの質を示す指標との相関を調べたところ、相関は認められなかった。よって、質を示す指標として体色を利用している可能性は支持されなかった。次に、夜間の生息環境と同程度の照度で、青色光のみを照射することで体色を認知しにくくした実験区画と、同じ照度の白色光を照射した対照区での相手個体への定位時間を比較した。その結果、相手への定位時間は、青色光の区画で有意に減少した。さらに、種内コミュニケーションで用いられる尾振りディスプレイの発生確率が白色光区画で上昇した。また、ニシヤモリの視覚モデルにおいて、腹側の体色が背側に対して識別可能か推定したところ、一定程度のコントラストを示し識別可能であることが示唆された。したがって、目立つ体色が同種他個体の存在を認知しやすくすることで、定位行動が生じやすくなり、種内コミュニケーションの頻度が増加する可能性が支持された。