| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-104 (Poster presentation)
捕食回避戦略では、色彩や行動を含む複数の防御形質がそれぞれ単体で現れるよりも同時に機能することによってより高い効果が得られることが知られている。たとえば、隠蔽色の生物は捕食者からの検出を防ぐために目立たないように行動する一方で、枝や鳥糞などの食べ物でない物体に似せるマスカレードの生物では捕食者に誤認されるような行動をとることが期待される。しかし、異なる捕食回避戦略におけるこのような相関進化を野外で比較した研究は少ない。そこで本研究では、カンキツ類を食樹とするナガサキアゲハPapilio memnonとナミアゲハPapilio xuthusを対象に、幼虫の微生息場所とそれに関連する生活史形質を調査した。ナガサキアゲハの幼虫は1・2齢のときは白黒色だが、体サイズが大きくなった3齢からは徐々に緑色を帯び隠蔽的になる。一方で、ナミアゲハは1齢から4齢まで白黒色をしており、鳥糞に似せたマスカレードとされている。野外調査の結果、ナガサキアゲハはナミアゲハに比べて幼虫が開空度の小さい位置の大きい葉に静止していたことが分かった。また、ナガサキアゲハでは幼虫が齢の進行と体色の変化に伴って開空度がより小さい位置に静止するようになった。さらに、ナガサキアゲハはナミアゲハよりも成虫が枝先から奥に入った場所の大きい葉に産卵し、卵に対する頭の大きさが大きく、硬い成葉を与えた場合の生存率が高かった。これらのことから、両種はそれぞれの捕食回避戦略に応じて産卵場所選択・生活史形質・幼虫の微生息環境選択が進化し、それらが統合して機能していることが示唆された。