| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-105 (Poster presentation)
ザトウクジラは、大型の海生哺乳類であり、複数個体で同調行動することが知られている。同調行動はエネルギー消費の最適化や動物の社会性に由来する重要な行動様式と考えられる。本研究では、ザトウクジラが同調行動する理由を探るために、バイオロギング手法を用いて行動データを解析した。
2017年6–7月にカナダのセントローレンス湾で野外調査を実施し、2ペア(計4個体)に記録計を装着し、得られた深度、遊泳速度、3軸加速度データを解析した。同調潜水の有無を確認するため、ペア間の深度データの相互相関関数(ccf)を算出し、10分間ccf値が0.5以上の期間を同調潜水と定義した。また、本種が餌生物に突進し採餌する突進採餌を検出するため、3軸加速度から算出した動きの激しさを示す指標であるJerkを算出し、Jerkの極大値付近と遊泳速度が2 m/s以上と定義した採餌行動を抽出した。個体ごとに同調潜水時と非同調潜水時の採餌頻度(潜水時間当たりの採餌行動の回数)や潜水深度を比較した。
個体Aから20.8時間、個体Bから11.6時間、個体Cから6.6時間、個体Dから6.0時間の行動記録が得られた。個体A・Bのペアは記録計装着直後の約3時間同調を示し、その後は同調しなかった。個体C・Dのペアは記録期間を通して同調していた。採餌頻度について、同調潜水時に個体Aは1.10±0.14回/分、個体Bは1.21±0.15回/分、非同調潜水時に個体Aは1.50±0.44回/分、個体Bは2.00±1.08回/分となり、どちらの個体も非同調潜水時の方が採餌頻度が高かった(t検定、p<0.001)。また、平均採餌潜水深度を比較すると、同調潜水時において、個体Aは109±13 m、個体Bは103±12 m、非同調潜水時において、個体Aは27±5 m、個体Bは18±5 mとなり、非同調潜水時の方が浅かった(t検定、p<0.001)。以上の結果から、本海域のザトウクジラは同調潜水することで深い深度帯の採餌で採餌効率以外のメリットを獲得し、非同調時はより浅い深度で効率的に採餌している可能性が示唆された。