| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-107 (Poster presentation)
氾濫原に生息する陸生昆虫は増水や予期せぬ落水によって水環境にさらされることがある。このようなとき、水を回避する方法にはいくつかのパターンが知られる。氾濫に関する例をみると、生息地の浸水前において、降雨などをきっかけにその場から離れる行動がみられる。浸水後においては、退水まで地中で耐える、脚を使って水面を移動する、水面に浮かぶものに掴まって移動する、水面から飛び立つ、などの行動が知られる。このうち本研究では、河原でみられる小型の地表徘徊性甲虫を対象に、水面からの離陸能力について検証した。まず、室内において約20種の甲虫を水面に落とし、離陸するかどうかを調べた。離陸した場合、初発の離陸までの所要時間を計測し、生存時間解析を行った。その結果、オサムシ科、ハネカクシ科、コメツキムシ科、アリモドキ科に属する甲虫で離陸が確認され、離陸率と離陸に要する時間は種によって異なった。また、この傾向は流水下でも変わらなかった。水面から飛び立つ行動の過程を詳細に調べるため、ヨツモンコミズギワゴミムシ(オサムシ科)とシンニセユミセミゾハネカクシ(ハネカクシ科)について、行動を高速度カメラで撮影した。すると、いずれの種も、着水後に一度水面上に立ってから離陸する動作がみられ、シンニセユミセミゾハネカクシにおいてより短時間で離陸した。これらの種を異なる濃度の界面活性剤水溶液の水面に落とすと、その濃度が高くなるほど離陸率は低下した。以上により、水面から飛び立つことができる陸生昆虫はこれまで知られていたよりも幅広い分類群にわたり、飛び立つためには一度水面に立つ必要があることがわかった。また、離陸時間の種間変異から、離陸能力は生息場所が水際環境に近いほど高く、水に鋭敏に反応していると考えられた。