| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-109  (Poster presentation)

グリーンランドの氷河フィヨルドにおけるワモンアザラシの潜水パターン【A】【O】
Diving patterns of ringed seals in the glacial fjords of Greenland【A】【O】

*櫻木雄太(北海道大学), Aqqalu ROSING-ASVID(Greenland Inst. Nat. Res.), 杉山慎(北海道大学), 三谷曜子(京都大学)
*Yuta SAKURAGI(Hokkaido Univ.), Aqqalu ROSING-ASVID(Greenland Inst. Nat. Res.), Shin SUGIYAMA(Hokkaido Univ.), Yoko MITANI(Kyoto Univ.)

 北極域沿岸には、複雑な地形を持つ氷河フィヨルドが存在し、多くの高次捕食者が生息している。特に夏季の氷河末端付近では、氷河融解水による湧昇流が高い生物生産性を生み出し、多くの捕食者が採餌のために集まると考えられてきた。しかし、アザラシのような潜水動物が氷河末端付近でどのような採餌関連の潜水行動を示すのかは明らかにされていなかった。本研究では、北極域生態系において重要な捕食者であるワモンアザラシが、氷河が流入するフィヨルド内のどのような環境で採餌に関連する潜水を行うのかを明らかにすることを目的とした。
 2021年および2023年の8月に、グリーンランド北西部の氷河フィヨルドにおいて、ワモンアザラシに衛星発信器を装着し、位置情報、潜水深度、水温、塩分を取得した。アザラシは餌生物が豊富な場所でより長く留まると考えられるため、位置データをもとに行動状態を滞在(ARS)と移動(Transit)に分類した。また、潜水深度から予測される潜水時間と比較して、実際の潜水時間が長いかどうかを示す指標(DCDD)を算出した。
 夏季(8~10月)の氷河末端が海に面する時期には、氷河末端付近でARSが観察され、また、氷河末端付近および深度100 m付近の−1~0℃の水塊において、ARS中のDCDDが長くなる傾向が示された。一方、冬季(11月以降)には氷河フィヨルド内が結氷し、アザラシは沿岸付近や海底付近、約−1℃の水塊において、ARS中のDCDDは長くなる傾向が見られた。これらの環境条件は、ワモンアザラシの主要な餌生物であるホッキョクダラの分布特性と一致しており、ワモンアザラシは採餌のために、夏季には氷河末端付近を、冬季には沿岸域を利用していたことが示唆された。


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