| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-110  (Poster presentation)

ヤマトサンショウウオの粘液分泌は捕食回避に関与するか?【A】【O】
Is mucus secretion involved in predation avoidance in Hynobius vandenburghi?【A】【O】

*大塚玲央奈, 森哲(京都大学)
*Reona OTSUKA, Akira MORI(Kyoto Univ.)

自然界における食物網の中で、捕食者は動物の行動を決定する主要な選択圧となっており、被食者には捕食リスクを軽減し適応度を上げるための多様な対捕食者行動が進化している。日本に生息するサンショウウオ属は対捕食者行動として粘液分泌や尾上げ行動を行うとされている。しかしながら、実際にこれらの行動が対捕食者行動であることを示した行動学的な研究はない。そこで「サンショウウオ属は尾上げ行動により体の重要でない部分である尾に捕食者からの攻撃を逸らし、不快な物質である粘液を捕食者に付着させることで捕食回避している」という仮説をたてた。本研究では特に粘液分泌に着目して仮説の検証を目指した。実験には日本に生息するサンショウウオ属の一種であるヤマトサンショウウオを用いた。初めに、サンショウウオの体の部位ごとの粘液分泌量を定量的に評価した。サンショウウオにピンセットで刺激を与え、頭部、胴部、尾部から分泌された粘液を採取し、その重量を比較した。その結果、尾部で有意に多く粘液を分泌していた。尾で粘液を分泌することは、尾上げ行動によって粘液を捕食者に付着させるうえで重要であると考えられる。次に、捕食者であるシマヘビに対するサンショウウオの粘液塗布実験を行った。まず電気刺激装置を用いてサンショウウオから粘液を採取し、ヘビの口腔内に粘液を塗布した。続いて、そのヘビの行動観察及び採餌実験を行い、粘液の効果を調べた。その結果、粘液を塗布した個体はコントロール操作した個体に比べて異常行動が多くみられた。また、餌を食べる時間や食べ終わるまでの時間が粘液塗布個体で長くなる傾向がみられた。これらの結果は粘液が捕食者にとって不快であり、捕食回避の役割を担っていることを示唆している。粘液分泌量の定量的評価と粘液塗布実験の結果は粘液分泌が対捕食者行動として機能しているという仮説を支持した。


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