| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-111 (Poster presentation)
日本列島には、ニホンモグラ属(Mogera属)5種などの多様なモグラ科動物が生息している。中でもサドモグラ(M. tokudae)は佐渡島に固有のモグラで、日本産の本属のうち最も分岐年代が古いとされる(Kirihara et al.、2013)。これまでにアズマモグラ(M. imaizumii)、コウベモグラ(M. wogura)においてミミズ(Pheretima spp.、広義のフトミミズ類)の摂食行動に対する吻幅など頭骨形態の影響を飼育下で観察してきた結果(氷見、2016;清水、2019など)、吻幅の広い個体ほどミミズ摂食速度が速くなることが示唆された。サドモグラは上顎切歯列の形態がアズマモグラに近く(Abe、1967)、コウベモグラのような大型のモグラである。本研究では本種3頭の摂食行動を観察し、従来の2種での結果と比較して、モグラの頭骨形態がミミズ摂食速度に及ぼす影響を改めて検討した。
その結果、サドモグラの摂食行動の特徴として、従来の2 種で頻繁に観察される、摂食を中断してミミズの摂食方向を変える(多くは頭端から食べ始め、後に尾端から)という行動を取る頻度が低く、摂食を中断した回数は321例中22例、そのうちミミズの摂食方向を変える行動が確認されたのは10例であった。摂食速度への頭骨形態の影響として、頭骨最大長が大きくなると摂食速度が速くなるという結果が得られた(R、Version 4.4.2の一般化線型混合モデル、P=0.0002)。これまでに摂食速度との関連が示されていた吻幅は摂食速度との間に有意な関連が見られなかった。
本種では他のモグラに見られる特徴的なミミズ摂食行動の一部がほとんど見られないこと、摂食速度に頭骨形態が与える効果が他の2種と異なるという結果が得られた。このことは本種が350万年の間独自の進化史を辿ってきたことが関係している可能性がある。