| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-113 (Poster presentation)
採餌行動は動物の生存において極めて重要であり、個体群内でも経験や属性、利用する微環境の違いによって、個体ごとに特定の採餌場所を繰り返し利用する傾向や、採餌行動の特殊化が生じることがある。採餌行動の特殊化とは、個体が特定の資源や採餌場所を選択的に利用し、その結果、採餌場所や採餌ルートに個体差が生じる現象を指す。これは、エネルギー消費を抑えると同時に、個体間の資源利用の重複を減らし、種内競争を緩和する利点があるが、環境の変動によって採餌コストが増加する可能性もある。
海洋の上位捕食者である海鳥は、繁殖期に限られた時間と範囲内で効率的に採餌する必要がある。海洋環境は時空間的に変動が大きく、特定の餌場に依存すると採餌効率が低下するリスクがあるため、採餌行動の特殊化が進みにくい可能性がある。一方で、環境が安定した年や海域では、特定の餌場を利用する特殊化が生じるかもしれない。このように、海鳥の繁殖期特有の制約と海洋生態系の不確実性が交差する中で、個体群内の資源利用の特殊化を研究し、その要因や個体・個体群への影響を明らかにすることは、環境に適応した採餌戦略の理解や保全戦略の策定において重要である。
本研究では、新潟県粟島で繁殖するオオミズナギドリを対象に、GPSロガーから得られた移動経路データを用いて、個体内および個体間での採餌場所の重複度を分析し、採餌行動の特殊化の有無を評価した。その結果、個体ごとの採餌場所の重複度は低く、明確な特殊化は確認されなかった。しかし、一部の個体では高い重複度を示し、個体によって採餌場所の一貫性が異なる可能性が示唆された。採餌場所の重複度が低い個体が多い理由として、繁殖地周辺の海洋生産性が低く、広範囲を探索する必要があることや、高栄養価の餌を求めて繁殖地から遠くへ移動する必要があることが考えられる。