| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-115 (Poster presentation)
動物園などの飼育動物では、野生環境ではほとんど観察されない異常行動がしばしば見られる。異常行動は常同行動や過度なグルーミング、自傷行為など動物種により様々である。異常行動は飼育環境によって、動物が不自然なストレスや欲求不満を強いられる事で起こると議論されてきたが、神経生理レベルでの発現要因についてはほとんどわかっておらず、今後の動物福祉を考える上で重要な視点である。近年、脳や神経系への腸内マイクロバイオームの影響が注目されている。宿主の消化や栄養吸収だけでなく、腸内マイクロバイオームの組成の違いが宿主の様々な生理機能や精神的疾患の発症リスク、さらには行動や性格にまで影響を及ぼす可能性が示唆されている。そこで本研究では、飼育動物で見られる異常行動に関連する因子として、腸内マイクロバイオームの組成の違いがあるのではないかという仮説を立て、飼育レッサーパンダを対象に研究を行った。札幌市円山動物園で飼育されているレッサーパンダ4個体を対象に、2023年9月から1年間、行動観察と糞便の採取を行った。直接観察に基づいた1分間隔の瞬間サンプリングで行動を記録し、活動時間配分を算出した。採取した糞便からDNAを抽出し、16S rRNA解析によって、腸内マイクロバイオームの組成と多様性の変化を調べた。行動観察の結果、観察した4個体全てで「常同歩行」と「過度なグルーミング」の2種類の異常行動が確認され、うち2個体は他の2個体と比べ異常行動の発生割合が有意に高かった。異常行動の発生割合が多い個体と少ない個体とで腸内マイクロバイオームの比較を行ったところ、2グループ間の組成は異なる事がわかった。また、異常行動の発生割合が多いグループで有意に変化する腸内細菌の代謝経路が複数存在した。今後はこれらの遺伝子に着目し、腸内マイクロバイオームのどのような代謝特徴が異常行動の発生に関連するかを明らかにしていく予定だ。