| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-117 (Poster presentation)
マカジキKajikia audaxの主な生息域は熱帯・亜熱帯域にあり、水温が上昇する夏季に日本近海の温帯域へと来遊し、冬季には再び熱帯・亜熱帯域に移動する季節回遊を行うことが知られている。しかし、これらの情報は漁獲情報に基づく知見であるため、マカジキの回遊生態について詳細な時空間変化は明らかではない。また、日本近海から熱帯・亜熱帯域への長距離移動を行う時期は、環境水温がマカジキの分布域の下限水温である20℃付近に低下することに起因すると考えられている。
本研究では、天然海域において魚類の行動を直接的に記録可能な電子標識を用いて、夏季に東シナ海北部海域に来遊したマカジキの水平移動様式を明らかにし、南方海域への長距離移動の契機が水温低下によって引き起こされるのかを検討した。
2023年8月20日~29日に対馬海峡西水道に来遊したマカジキ(推定体重45~75kg)10個体に船上から銛を用いてポップアップアーカイバルタグ(MiniPAT: Wildlifecomputers社製、以下電子標識)を魚体体側部に装着した。電子標識は放流から8ヶ月後に海面に浮上するようにタイマーを設定した。浮上後に、標識魚が経験した照度、深度と水温の時系列データはアルゴス衛星を通じて取得した。得られた照度記録を基に、ジオロケーションソフトウェアGPE3にて標識魚の1日ごとの水平位置の推定を行った。
放流した10個体のうち、5個体から南方への長距離移動の記録が得られた。これらの標識魚は、放流直後の8月から12月まで連続的に東シナ海北部海域(30°40’N以北)に滞留した後、12月上旬に全ての個体が南方へ長距離移動を開始した。そのうち1個体は10月中旬に早期の移動が確認された。標識魚の経験水温は8月に平均29℃と高かったが、季節が進むにつれて徐々に減少し、12月には平均21℃まで低下した。この時、4個体は同じ時期に東シナ海北部海域を離脱したことから、南方移動の契機は東シナ海北部海域の表面水温の低下が影響していることが示唆された。