| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-118 (Poster presentation)
大阪湾は人間活動が活発であり環境の変化が著しい。このような急激な環境変化は沿岸生態系の頂点捕食者である小型鯨類にも影響を与えている可能性があるが、それらの保全に必要な生態学的情報が不足している。本研究では、定点で音響観測調査を長期間実施することで、大阪湾内における小型鯨類の来遊状況と来遊時の環境特性を把握することを目的とした。
小型鯨類の超音波鳴音を記録できる水中音響記録計を、大阪湾北西部の淡路市(設置期間:2023年7月~2025年1月)、神戸市垂水区(2022年9月~2024年6月)、大阪湾南部の洲本市(2023年8月~2025年1月)、泉南郡岬町(2024年6月~2025年1月)、阪南市(2024年3月~12月)に設置し、音響データを取得した。取得データから音圧、音圧比、パルス間隔を算出し、これらの値が滑らかに変化する一連の音を1回の小型鯨類の鳴音とした。
淡路市で229回(記録期間:442日)、神戸市垂水区で338回(501日)、洲本市で53回(331日)、泉南郡岬町で201回(214日)、阪南市で95回(134日)、小型鯨類の鳴音が検出された。そのうち神戸市垂水区24回、泉南郡岬町20回、阪南市95回はネズミイルカ科の鳴音特性を有しており、スナメリの鳴音と推定され、その他の鳴音は全てマイルカ科鯨類と推定された。
スナメリの鳴音について、検出がなかった淡路市と洲本市周辺海域の水深は50 m以深と深く、一方最も多く記録された阪南市周辺海域の水深は10 mと調査地点の中で最も浅かったことから、大阪湾におけるスナメリの分布は水深に依存していると示唆された。淡路市周辺の海域は海底構造や上昇流の影響で一年を通して生産性が高く、本研究での一年を通したマイルカ科鯨類の鳴音検出は、淡路市周辺海域の生産性の高さに起因していると考えられた。神戸市垂水区と泉南郡岬町では、スナメリとマイルカ科鯨類の鳴音が検出されたが、それらは同時に検出されず、スナメリとマイルカ科鯨類は競合または棲み分けをしている可能性が高かった。