| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-120  (Poster presentation)

5本と6本でどう違う?ヒトデの腕数が行動に与える影響【O】
How do five and six arms differ? The Impact of arm number on seastar behavior【O】

*向後隼輔, 和田葉子(宮崎大学)
*Shunsuke KOGO, Yoko WADA(Miyazaki Univ.)

動物の手足の数は通常、種ごとに一定であり、進化的に適応した形態と考えられている。しかし、棘皮動物では、五放射相称から逸脱した異形個体の割合が他の分類群よりも高い。特に、ヒトデの一部では通常5腕に加え、4~9腕の個体が存在する。なぜヒトデが多様な体制を持つのかを議論する上で、腕の数が行動に与える影響を明らかにすることは重要である。しかし、これについての知見はほとんどない。
本研究では、5腕および6腕のイトマキヒトデ (Patiria pectinifera) を対象に、逃避行動と起き上がり行動の反応時間を比較し、刺激に対する適応的な行動の違いを明らかにした。
逃避行動において、逃避角度に有意な差は見られなかった。しかし、腕の数に注目すると、5腕個体では刺激された腕の2本隣の腕の方向に集中して移動していたのに対し、6腕個体は3本隣やその他の方向に分散して移動していた。また、5腕個体は6腕個体よりも速く移動できることが分かった。
起き上がり行動においては、両群とも最初に2本の腕を起点とする場合が最も多かった。また、その他の腕数を起点にした場合でも、最終的には2本の腕を起点として起き上がった。起き上がる時間は、2本または3本の腕を起点とした場合に最も短かった。一方で、最初に4本の腕を起点とした個体は、最終的に腕数が変わることなく起き上がり、最も時間がかかった。この4本起点のパターンは6腕個体でのみ確認された。結果として、5腕個体は6腕個体よりも速く起き上がることが明らかになった。
これらの結果は、5腕個体が刺激に対してより適応的な行動を示すことを示唆しており、その背景にはヒトデの神経環における「5本のルール」が強く関与している可能性がある。腕の数が変化しても、この神経メカニズムが維持されると仮定されることから、本研究はヒトデの進化的適応の理解に重要な示唆を提供する。


日本生態学会