| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-125 (Poster presentation)
昆虫はその現存量や多様性の高さから生態系において重要であり、農作物被害や害虫管理など人間生活とも密接に関連している。昆虫には採餌や繁殖のために長距離移動をするものも多い。よって、昆虫の発生地域や移動経路を解明することは、その生物種の生活史の理解だけでなく保全、害虫管理など応用面においても重要である。近年、昆虫の移動追跡に水素や酸素同位体を用いた手法が用いられている。しかし、これらの研究の多くはアメリカ大陸であり、モンスーン地域である東アジアでの応用例は少ない。そこで、本研究では日本列島の昆虫の移動追跡の手法として酸素同位体が利用可能かどうかを検証した。本研究では、日本列島の森林18地点で採集した糞虫の酸素同位体比を測定し、解析を行った。まず、センチコガネとクロマルエンマコガネの2種の糞虫について、糞虫の酸素同位体比が調査地間で異なるか検討した。さらに、線形混合モデルを用いて、糞虫の酸素同位体比に対する種の効果と、糞虫の酸素同位体比と環境変数(緯度、標高、年平均気温、降水や河川水、リターの酸素同位体比)との関係を調べた。その結果、センチコガネでは調査地間で糞虫の酸素同位体比の有意な違いが見られたが、クロマルエンマコガネでは有意差は見られなかった。全てのモデルにおいて糞虫の酸素同位体比の種による有意な効果が見られ、クロマルエンマコガネの方が高い値を示した。糞虫の酸素同位体比は緯度や標高とは有意な関係性が示されなかったが、年平均気温、降水、河川水、リターとは有意な正の関係が見られ、その中でもリターと最も強い関係性を示した。環境水やリターとの間に有意な関係が見られたことから、糞虫の酸素同位体比は糞虫が飲料水や餌資源として摂取する酸素の同位体比を反映していることが示唆された。このことから、日本列島の昆虫においても、酸素同位体比を用いて出生地が推定できる可能性があると考えられる。