| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-127 (Poster presentation)
生物の野生での生態、特に生活史の中でも重要な繁殖生態の解明は、学術的および保全の観点から重要な課題である。野生での生態学的知見が不足していた場合、実験室で観察された生命現象の解釈を誤る可能性もあると考えらえる。ミナミメダカ(以下、メダカ)は、発生学・遺伝学・生理学・生態学などの多岐にわたる分野で1世紀にわたって研究され、魚類のモデル生物として代表的な存在である。しかし、逆に室内での飼育・繁殖や実験の容易さから、半自然条件を含む野外環境での生態に関する報告は限られている。実際、メダカの産卵行動は日の出前後の1時間以内に行われると従来考えられてきたが、実験室はもちろん野生での暗条件下での直接観察による実証的研究は行われていない。本研究では、自然光および自然水温条件下で個体を飼育し、24時間の連続観察を実施することで、メダカの産卵開始時刻とそれに伴う求愛行動の経時的変化を調べた。具体的には、野外に設置した飼育水槽で飼育したメダカを用い、雌雄それぞれ1個体を同一水槽に入れ、18:00から赤外線カメラによる24時間の連続撮影を実施した。動画解析により、産卵行動の開始時刻の特定および求愛行動の活動量の経時変化を定量した。実験期間中、日の出は4:45頃であった。31ペアの観察により、産卵行動は深夜から午前中の早い時間である1:05-9:48の間に起こり、2:00-4:00にピークを示すことが明らかになった。産卵行動の26%が日の出前後1時間以内に観察された。「したがい」や「求愛円舞」といったオスのメスへの求愛行動は深夜から増加し、2:00-5:00にピークを示した。本研究は、これまで見過ごされてきたメダカの繁殖生態に関する新たな知見を提供するものである。また、本研究は実験室で観察される生物学的現象をより包括的に理解するために、モデル生物における野外での生態研究の重要性を示している。