| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-130  (Poster presentation)

イトヨ稚魚期の温度耐性と脂肪酸代謝に関する分子遺伝学的解析【A】【O】
Molecular genetic analysis of temperature tolerance and fatty acid metabolism in sticklebacks【A】【O】

*馬亦涵, 福田茉由, 石川麻乃(東京大学)
*Yihan MA, Mayu FUKUDA, Asano ISHIKAWA(The University of Tokyo)

脂肪酸は、魚の成長や行動に必須の栄養素である。特にドコサヘキサエン酸(DHA)などの多価不飽和脂肪酸(PUFA)は、細胞膜の構成要素であり、細胞膜の機能維持や神経系の発達など多様な生理機能に寄与し、魚の健全な発育に不可欠である。海と淡水域では、これらPUFAの含有量が大きく異なり、海ではPUFAが豊富なのに対し、淡水では乏しい。さらに、多くの生物で温度などの環境ストレスにより、脂肪酸の鎖長や不飽和度、その代謝経路が変化することも知られる。しかし、水温とPUFAの相互が魚類の初期発育に及ぼす作用やその分子遺伝機構の多くは未解明である。そこで本研究では、異なるDHA合成能力と温度耐性を持つトゲウオ科姉妹種イトヨGasterosteus aculeatusとニホンイトヨG. nipponicusをモデルに、これらを解明する。イトヨは海から淡水域に何度も進出し、多様な形態や生理的特性を進化させてきた。一方、ニホンイトヨは、汽水域から海にしか生息しない。これまでの研究から、イトヨはDHA合成能力が高く、DHA欠乏下でよく生存する一方、ニホンイトヨ成魚はイトヨ成魚に比べて高い温度耐性を持つことが明らかにされてきた。そこで、まず高温とPUFAの摂取が初期成長や生存に与える影響を両種で比較した。孵化直後のイトヨとニホンイトヨを高温(28°C)で飼育し、DHAを含む餌と含まない餌を与えると、イトヨは至適温度(16℃)で飼育した場合より、体長が短くなり、骨格異常が生じ、死亡率が上昇した。一方、ニホンイトヨは高温で体長が短くなったものの、生存率への影響はなかった。また、DHAは、高温下のニホンイトヨの体長を促進したが、他の群では体長と生存率に顕著な影響がなかった。本発表では、脂肪酸代謝関連遺伝子や温度耐性遺伝子の発現解析をふまえ、温度耐性と脂肪酸代謝の種間差をもたらす分子遺伝機構について議論する。


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