| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-131 (Poster presentation)
ゴリラ属は基本的に単雄複雌群を形成するが、しばしば複雄群が観察され、種(亜種)間で社会構造の変異がみとめられる。ゴリラ属における社会構造の多様性は、オスの出自群からの移出の有無や時期といった生活史パタンの違いによって生じる。例えば、マウンテンゴリラ(Gorilla beringei beringei)では性成熟したオスの50%以上が移出せず、出自群で繁殖するのに対し、ニシローランドゴリラ(G. gorilla gorilla)およびヒガシローランドゴリラ(G. b. graueri)ではほぼ全てのオスが移出する。このように、オスの移出はゴリラの社会構造を決定する重要な生活史イベントであるが、そのプロセスや至近要因については分かっていない。本研究は、オスの生理状態が移出のタイミングに与える影響を明らかにするため、成長過程における糞中コルチゾル濃度およびテストステロン濃度の変化を縦断的に調べた。調査は、2011年10月から2018年3月まで、ガボン共和国ムカラバ—ドゥドゥ国立公園において行った。人づけされたニシローランドゴリラ2群について、出自オス16個体、群れの核オス(繁殖オス)2個体、群れ外の単独オス3個体から糞便試料を採集し、DNA解析による個体識別とともにコルチゾル濃度およびテストステロン濃度を測定した。解析の結果、ブラックバック(11〜14歳)のコルチゾル濃度は、コドモ(4〜7.5歳)、サブアダルト(7.5〜11歳)、ヤングシルバーバック(14〜18歳)およびシルバーバック(18歳以上)に比べて高いことが分かった。また、対象群ではオスの出自群からの移出年齢は平均14歳であった。テストステロン濃度については、ばらつきが大きく、年齢クラスによる有意な差はみとめられなかった。以上のことから、成長過程におけるストレスレベルの上昇がオスの移出を促進することが示唆された。