| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-132 (Poster presentation)
生物の体色や模様は千差万別である。特に魚類の体色は多様性に富み、多くの人々を魅了してきた。一般に体色・模様には紫外線防御や体温保持など様々な役割があるが、魚類の体色・模様は隠蔽色、婚姻色や個体識別のシグナルに代表される他個体との相互作用を伴う役割を担うことで顕著に多様化したと考えられている。しかしながら、魚類の体色に対する定量的調査、特に発達過程を追った研究は少ない。体色の適応的意義は各成長・発達段階で変化すると考えられるため、その科学的評価は生態を捉える重要な視点となり、体色・模様の機能という、生物学の普遍的なテーマの解明に貢献する。
サケ科イワナ属の近縁種であるオショロコマとアメマスには腹部が黄色や赤色で着色される腹部着色がある。腹部着色の範囲は腹部の大半に及ぶものから全くないものまで変異が存在するが、その機能や適応的意義は全くわかっていない。両種の生息環境は成長・発達段階で変化するため、個体の成長・発達と腹部着色との関係を理解することが重要である。そこで本研究は、異なる体サイズ・時期の両種を対象に腹部着色の変異を定量化し、発達に伴う腹部着色の変化を調査した。
空知川流域でオショロコマ275個体、アメマス221個体の合計496個体の腹部着色パタンを調べた結果、体サイズ、性別、成熟にともなう着色パタンが種間で大きく異なることが明らかとなった。オショロコマにおいては大型化、成熟にともない着色が発達し、この傾向はオスで明瞭であった。これは性選択と関連していると考えられる。一方、アメマスは中程度の体サイズで着色が最も顕著であり性差は認められなかった。これは隠蔽色や競争的優位性のシグナルなどとして機能している可能性がある。同所的に生息する近縁種間でもパタンが大きく異なることから、腹部着色には複数の重要な機能が存在すると考えられた。