| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-133  (Poster presentation)

トゲウオの胚発生期において多様な高温耐性を生む分子機構【O】
Molecular mechanisms underlying variation in embryonic thermal tolerance in sticklebacks【O】

*福田茉由, 石川麻乃(東京大学)
*Mayu FUKUDA, Asano ISHIKAWA(The University of Tokyo)

地球温暖化や異常気象、大気・海洋汚染などによる地球環境の変化は、地球上の多くの生物に深刻な影響を及ぼす。中でも水生環境では、外温動物の体温が環境水温と密接に対応することが多いことなどから、地球温暖化の影響は高緯度の河川や湖沼でより深刻になる可能性が示唆されている。冷水性の魚類であるトゲウオ科イトヨGasterosteus aculeatusはこのような高緯度の淡水域から海洋にかけて生息するため、低緯度に生息する魚類よりも早い気温上昇を経験し、地球温暖化に強い影響を受ける生物群の1つであると考えられる。高温に対する魚類の応答についてはこれまで様々な魚種について多くの研究が蓄積されており、高温が魚類の成長や抗酸化作用、免疫などに影響を及ぼすことが報告されているが、近縁種間での高温耐性の違いを生む分子遺伝機構の多くは明らかになっていない。先行研究より、イトヨと約68万年前に種分化した姉妹種であるニホンイトヨG. nipponicusは、生後2ヶ月の稚魚および成魚においてイトヨよりも高い高温耐性を持つことが分かってきた。しかし、この2種間の高温耐性の違いが、卵や仔魚期から見られるものなのかや、その違いをもたらす分子機構は未解明である。そこで、まずこの姉妹種2種の受精卵および孵化直後の仔魚を用いて、高温条件下での胚発生と仔魚の生育を観察し、その生存率や形態を比較した。その結果、受精卵と孵化直後の仔魚においてもニホンイトヨはイトヨよりも高温耐性が高いことが判明した。また、高温条件下では、胚の背骨や頭部などの形態形成に異常が生じることが明らかになった。さらに、複数の温度条件と生育段階においてRNAseqを実施し、高温によって有意に変動する遺伝子群を探索した。本発表では、これらの遺伝子群と高温条件下におけるイトヨおよびニホンイトヨの発生や形態形成の関連について議論する。


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