| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-134 (Poster presentation)
動物の種内コミュニケーションは、個体の適応度を高めるだけでなく、個体群の構成を決定する上でも重要な役割を果たす。哺乳類は自身の生殖および社会的地位に関する情報を他個体に伝達するために匂いを信号として用いる。匂いは発信者がその場にいなくても情報伝達が可能であり、さらに信号としての持続時間も長い。そのため、個体群内で空間的に分散して生活する単独性哺乳類にとって効果的なコミュニケーション手段である。クマ類は広大な行動圏を持ち、縄張りを持たない単独性の大型哺乳類であり、体の一部を樹木の幹に擦り付ける行動(以下、擦り付け)をとることが知られている。これは嗅覚による種内コミュニケーションのための行動であると考えられている。ヒグマやアメリカクロクマでは、特にオスが繁殖期に高頻度で背部を擦り付けることが観察されており、これはオスの優位性を示す行動と考えられている。一方、ツキノワグマにおいても擦り付けは確認されているが、その特徴や機能は十分に解明されていない。そこで本研究では、擦り付けが行われる樹木を網羅的に探索し、ツキノワグマの擦り付けの特徴を明らかにするとともに、その機能を検討することを目的とする。具体的には、擦り付けの季節差や性差、さらにツキノワグマが体のどの部位を擦り付けるのかを検証した。調査は栃木県日光足尾山地にて、自動撮影カメラを設置し、ツキノワグマによる樹木への擦り付けを記録した。その結果、オスが繁殖期に高頻度で擦り付けを行うことが明らかになった。この結果から、擦り付けはオスが高頻度で行う種内コミュニケーションの手段である可能性が考えられる。また、擦り付ける体の部位には性別による違いが見られた。擦り付ける部位の違いは、伝達する情報の違いに関係し、性別ごとに擦り付けが異なる機能をもつ可能性がある。