| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-136 (Poster presentation)
アリ類では基本的に翅をもつ有翅女王が飛行による分散と繁殖を担うが、一部の種では翅をもたず歩行による分散と繁殖を担う無翅女王が確認されている。無翅女王は50以上の属で独立に進化したとされる新奇カーストであり、その形態や社会構造は種によって多様である。これらの無翅女王の特徴を種ごとに調べることは、無翅女王の繁殖戦略や適応的意義の理解に繋がると考えられる。日本南部に分布するタテナシウメマツアリVollenhovia benzaiは有翅女王とワーカーで構成される多女王制のコロニーを形成するが、奄美大島の個体群でのみ無翅女王が確認されている。ただし本種の無翅女王の特徴についての詳細な知見は得られていない。そこで本研究では奄美大島個体群を対象に、社会構造と各雌性カーストの形態学的特徴を調べた。まず、97コロニーを対象に社会構造を調べたところ、有翅女王と無翅女王は同一コロニー内で共存しないこと、そして有翅女王は単女王制を、無翅女王は多女王制を示す割合が高いことが明らかとなった。続いて、各カーストを対象に各部位の形態計測を行った結果、無翅女王の多くの形質は基本的に有翅女王とワーカーの中間的なサイズを示しながらも、視覚に関わる形質は有翅女王に、胸部構造はワーカーに類似することが分かった。また、ワーカーが卵巣と受精嚢を欠くのに対し、有翅女王と無翅女王は卵巣と受精嚢を有し、有性生殖ができることが確かめられた。ただし無翅女王の卵巣小管数は有翅女王のものよりやや少なかった。このように、奄美大島では無翅女王と有翅女王で巣内女王数が異なること、無翅女王は有翅女王とワーカーの特徴やそれらの中間的な特徴をモザイク状に併せもつことや、有翅女王に繁殖能力でやや劣ることが示唆された。無翅女王は低コストで生産でき、かつ多女王制を採用することで有翅女王とは異なる適応的意義を創出していると示唆される。