| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-139 (Poster presentation)
複数種の寄生生物が宿主個体内において類似した資源を利用する場合,競争関係が生じ,宿主選好性や種分化につながることが考えられる。寄生性等脚類のヤドカリノオジャマムシ(以下オジャマムシ)とヤドカリノハラヤドリ(以下ハラヤドリ)は,干潟に優占するユビナガホンヤドカリの腹部表面に寄生する。本研究は同一干潟に生息するこれら2種の種間関係の有無を検証するため,2種の幼体から成体の生活史及び成長に伴う宿主の共有状況を明らかにした。調査は2022年5月から2023年4月に毎月三重県志登茂川河口の潮間帯からユビナガホンヤドカリを定量採集し,寄生者の等脚類を種別及び成長段階別に計数した。
調査を通じて合計5212個体のユビナガホンヤドカリを採集した。2種の寄生率はともに秋から冬の初期幼体が出現する時期に増加し,オジャマムシでは12月に43%,ハラヤドリでは2月に35%のピークに達した。12月から翌年3月の間に,寄生されたヤドカリの29%で同一宿主に2種の幼体が同時寄生していた。しかし,成体では調査期間中に2種の同時寄生は観察されなかった。オジャマムシの初期幼体はハラヤドリより1ヶ月早い10月に出現し,先に成長するのに対して,ハラヤドリの初期幼体は11月から3月にかけて高い割合を維持し,加入可能期間がより長かった。本研究では同じ海域に生息する同一宿主を利用する2種の寄生性等脚類が幼体段階では宿主を共有したが,成体段階ではどちらか1種しか見られなかった。このことから,幼体のある段階で競争が起こり,成体になるまでに一方が排除されることが示唆された。また,加入過程の違いから,宿主を巡って種間で異なる生活史戦略をとると考えられた。