| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-141  (Poster presentation)

河川景観における水温・餌資源動態の空間異質性とヤマメの生活史変異【A】【O】
Spatial heterogeneity in temperature and food resource dynamics, and life history variation of a salmonid fish across riverscape【A】【O】

*志田岳弥, 佐藤拓哉(京都大学)
*Takeya SHIDA, Takuya SATO(Kyoto Univ.)

生活史の種内変異が景観内でどのように維持されているかを理解することは、生物の環境適応や集団の安定性を解明する上で重要である。この課題について多くの先行研究は、景観内の様々な生息環境と、そこでみられる生活史形質の集団平均との相関関係から、局所適応の理解を進めてきた。一方、生活史変異は、成長ー生存トレードオフなどにより、生息地ごとにも創出・維持されている可能性がある。しかし、景観全体の生活史変異が、集団間と集団内変異の双方によって維持されていることを検証した研究はほとんどない。本研究では、サケ科魚類のヤマメ(Oncorhynchus masou masou)を対象に、生活史分岐に関わる環境条件(水温・餌資源)の季節変化とその空間異質性、そして各生息地での0歳魚の季節成長と成熟年齢を、源流域 (2.2㎢)から下流域(640㎢)までの6つの調査地において定量化した。さらに、全調査地における成熟年齢の変異に対する、調査地間および調査地内変異の寄与率をそれぞれ算出した。その結果、水温がより高く、春先の水生餌資源が豊富な下流域では、早熟個体 (0歳-1歳) が高頻度で出現した(雌で73-95%、 雄で65-100%)。一方、水温が低く、春以降に増加する陸生餌資源が比較的豊富な上流域では、特に雌で晩熟個体 (2歳-3歳)がより多くみられた(最上流で86%)。流域内には早熟・晩熟の傾向がありながらも、最下流と最上流を除く全ての調査地で、成熟年齢に一定の変異が確認された。その結果、雌雄ともに、流域全体における成熟年齢の変異は、調査地内変異に大きく依存していた(雌で84%、雄で88%)。これらの結果は、野生生物の適応や個体群の安定化プロセスを理解する上で、生息地ごとの生活史変異にも注目し、その創出・維持メカニズムを明らかにすることが必要であることを示唆するものである。


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