| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-142 (Poster presentation)
多くの捕食者は、捕食できるエサの大きさに上限がある。被食者がこの上限よりも大きく成長して以降、捕食者は被食者を捕食することができなくなり、「捕食の起こらない同居期間」が始まる。この期間中、捕食者は捕食を通して被食者の個体数を減らすことも、形質分布に影響を与えること(消費型効果)もできない。一方で、捕食者は誘導防御に代表される捕食リスクに応じた被食者の形質応答を引き起こすかもしれない(非消費型効果)。なぜなら、捕食された同種他個体に由来する刺激を除けば、捕食者から生じるにおいや捕食者との接触といった、被食者の形質応答をもたらす刺激は存在し続けるはずだからだ。しかし、「捕食の起こらない同居期間」は直接的な利害関係がないからか、従来の生態学において研究の対象とされてこなかった。「捕食の起こらない同居期間」に捕食者が被食者にどのような影響を与えるか探索するため、エサをだきかかえ口吻を刺して体液を吸うマツモムシとその被食者であるモリアオガエルのオタマジャクシ(以下、オタマ)を用いた室内操作実験を行った。(1)「捕食の起こる同居期間」のマツモムシの在不在と、(2)オタマが大きく成長して以降の「捕食の起こらない同居期間」のマツモムシの在不在を操作し、オタマの行動、形態、成長速度、幼生期間や変態サイズを調べた。「捕食の起こらない同居期間」におけるマツモムシの存在は、誘導防御についてよく調べられている行動と形態、また、成長速度に影響を与えなかった一方で、オタマの変態までの日数をわずかに長くし、また、変態サイズをわずかに大きくした。この「捕食の起こらない同居期間」の効果は、オタマが過去にマツモムシを経験したかどうかに左右されなかった。以上の結果は、捕食リスクに応じた被食者の形質応答の全貌を理解するには、「捕食の起こる同居期間」だけでなく「捕食の起こらない同居期間」も考慮する必要があることを示唆する。