| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-143  (Poster presentation)

エゾシカの母親は娘に優しい?:仔の性別と兄姉が育仔投資量に与える影響【A】【O】
Are Yezo sika deer mothers kind to their daughters?:effects of fawn's sex and older siblings on maternal investment【A】【O】

*吉田桃子(北海道大学環境科学院), 揚妻直樹(北海道大学 FSC)
*Momoko YOSHIDA(Hokkaido Univ.), Naoki AGETSUMA(FSC, Hokkaido Univ.)

 育仔は仔の生存率向上に不可欠である一方、親にとっては将来の繁殖とのトレードオフになる。母親のみが育仔を担うことが多く、エネルギーコストの高い授乳を行う哺乳類では、母親が仔の性別や仔の数によって育仔への投資量を調節することが知られている。しかし、それが繁殖成功にどのような影響を与えるかについては諸説あり、十分に解明されてない。本研究では、顕著な性的二型を持ち、母系社会を形成するとされるニホンジカを対象に、①仔の性別と②兄姉(1歳仔)の有無が、母親の育仔行動および育仔翌年の出産率と仔の1年間生存率に与える影響を調べた。
  育仔行動の観察は2020年と2024年の6~9月(計2シーズン)に北海道東部の厚岸町・愛冠岬で実施した。0歳仔を持つ母親を個体追跡し(計12母仔ペア・合計657時間)、アドリブサンプリング法と5分間隔のスキャンサンプリング法により授乳・毛繕い・2m以内の近接の継続時間や回数、母仔間距離を記録した。継続時間と回数は単位時間あたりの値に換算し、授乳許容率は仔が授乳をねだった回数のうち母親が授乳を許容した割合とした。また、育仔翌年の出産率と仔の1年間生存率は、2020~2024年(計5年間)に、育仔中のメス(のべ26個体)を対象に、翌年の出産後(夏季)に調査を行った。対象個体の出産と前年の仔の有無を確認し、出産率と仔の1年間生存率を算出した。
  その結果、①娘に対する授乳許容率は息子より高く、息子との母仔間距離は娘より短かった。②兄姉がいる仔との母仔間距離は兄姉がいない仔より短かった。また、1歳仔と0歳仔がいた母親の育仔翌年の出産率は、0歳仔のみがいた母親より高かった。なお、本調査中に母親が0歳息子と1歳娘へ同時に授乳する行動が確認された。発表ではこれらの結果に加え、仔の性別によって違いが見られた仔の成長に伴う育仔行動の変化を紹介し、エゾシカの育仔投資について議論する。


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