| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-145  (Poster presentation)

ネバタゴガエル幼生の飼育実験:食べずに成長できるオタマジャクシの伝説は本当か?【A】【O】
Rearing experiment of Rana neba larvae hatched from eggs: is myth that tadpoles can grow without eating true?【A】【O】

*澤入健太, 梶村恒(名古屋大学)
*Kenta SAWAIRI, Hisashi KAJIMURA(Nagoya Univ.)

 幼生期間や体サイズなどの発育成績は、変態後の成体の生存率や適応度に影響する重要な要素である。山地源流域の餌資源に乏しい環境を利用するタゴガエルの幼生は、何も摂食せずに卵黄だけの栄養で変態できることが知られている。2014年にタゴガエルから別種として独立したネバタゴガエルの幼生も同じ可能性があるが、その真偽を定量的に確かめた研究はない。本種の分布域は局所的であるため、絶滅リスクが高い。その保全のためには生態学的な知見が不可欠である。そこで、演者らは本種の幼生を異なる温度と給餌の条件で飼育し、生存率と発育成績がどのように変化するかを検証した。
 野外で採取した6個の卵塊を12℃で孵化させ、各卵塊に由来する幼生を10℃と25℃の温度条件に分けた。さらに、給餌条件は1)無給餌、2)茹でたホウレンソウ給餌、3)粉末にした観賞魚飼料(テトラミン)給餌の3パターンとした。したがって、温度と給餌を組み合わせた合計6条件で飼育した。発育中の生死と頭胴長(写真撮影後に画像解析)、変態までに要した日数(幼生期間)、変態時の体重を記録した。
 25℃・無給餌で変態に成功した。ただし、変態時の生存率は、給餌を行った両温度の合計4条件下よりも低かった。一方、10℃・無給餌では全個体が変態前までに死亡した。幼生期間は、10℃よりも25℃で有意に短かった。また、同じ25℃でも、無給餌の方が給餌を行った2条件よりも幼生期間が有意に長かった。体重は、25℃・無給餌の方が給餌を行った両温度の合計4条件よりも有意に軽かった。
 これらの結果から、ネバタゴガエルでも、低温でなければ、幼生は卵黄の栄養だけで変態できることが実証された。ただし、給餌条件と比較すると、生存率が低く、幼生期間が長くなった。本発表では、変態にいたるまでの生存率や頭胴長の推移も踏まえて、温度と給餌の条件が生存と発育に与えた影響を考察する。


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