| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-146 (Poster presentation)
発生から繁殖までの一連の生活史を系統間で比較することにより、ある種や特定の分類群がもつ特異な生活史がなぜ生じたのかを追究できる。緩歩動物門(クマムシ類)は深海から高地まであらゆる環境に生息する無脊椎動物である。一方で、クマムシ類の生活史記載は真クマムシ綱に集中しており、異クマムシ綱の知見は限られている。その要因の一つは異クマムシ綱の飼育の困難さにある。これまで人工環境下での異クマムシ綱の飼育成功例が報告されているものの、個体を個別に飼育することで一連の生活史を定量的に評価した例はない。そこで我々は、異クマムシ綱の一種Viridiscus perviridisの個体別の飼育方法を確立し、本種の室内飼育下における生活史を記録した。まず、個体別の飼育から、V. perviridisは単為生殖能力をもつことが判明した。単為生殖によって生じた卵は平均15.5日で孵化した。孵化後は脱皮を繰り返し、その周期は平均17日間であった。寿命は、孵化後平均223日であった。生殖は、孵化後平均63.2日から始まり、脱皮の際に卵を脱皮殻の中に産み付けることで行われた。産卵は脱皮毎に行われるとは限らなかったものの、生涯を通して行われた。一腹卵数は平均1.4個、生涯の総産卵数は平均14.2個であった。一定の場所にとどまる能力に寄与するとされる付属肢の鈎爪は、孵化後2本だったものが、一回目の脱皮(2齢)以降は4本に増加することがわかった。これらをクマムシ類の中で生活史の知見が比較可能な陸生真クマムシ綱7種と比較した。その結果、V. perviridisは他のクマムシ類の中で最も遅い成熟、少ない一腹卵数、長い寿命を示した。これは本種が、生活史が比較可能なクマムシ類において、最もK戦略型の生活史をとることを示唆する。今後は同じ生息場所から採集した他種とV. perviridisの生活史を比較することで、異クマムシ綱を含めたクマムシ類における知見を拡大し、クマムシ類の生活史戦略を決定する要因を明らかにしたいと考えている。