| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-147  (Poster presentation)

同所的に共存するドジョウ属2種間における生活史段階ごとの生殖隔離【O】
Reproductive isolation across each life stage between coexisting two Misgurnus loach species【O】

*八嶋勇気, 藤川凌希, 藤田衛, 岡隼斗, 北川忠生(近大院農)
*Yuki YASHIMA, Ryoki FUJIKAWA, Mamoru FUJITA, Hayato OKA, Tadao KITAGAWA(Graduate School, Kindai Univ.)

ドジョウは日本人にとって馴染み深い淡水魚の一つである。従来、国内のドジョウは単一種と認識されてきたが、近年行われた遺伝学的な研究により、狭義のドジョウ Misgurnus anguillicaudatus(Type II種)とは大きく分化した隠蔽種 M. sp. Type I sensu Okada et al., 2017(Type I種)が存在することが明らかになった。多くの場合、これら2種は個体群レベルでは側所的に生息するか1つの交雑集団を形成するため、2種の個体群は基本的には同所的に共存できないと考えられる。一方で、福井県嶺南地域では、両種が同所的に生息していながら交雑が確認されないことから生殖隔離の存在が示唆されるが、その隔離機構については未解明の部分が多い。本研究では、2種間の生活史段階ごとの隔離障壁について広く検証した。人工授精による掛け合わせ実験および屋外飼育実験の結果、雑種個体は正常に発生・成長することが確認され、野外の状況を考慮すると、交配後隔離はほとんど機能していないことが示された。また、野外調査を行ったところ、繁殖期・繁殖場に差異が認められたものの完全ではなく、一部で同所的な産卵が可能であることが示唆された。さらに、雄の繁殖形質には種間差があり、機械的隔離が寄与する可能性が示された。機械的隔離を検証するために実施した水槽実験では、雄が配偶行動時に強く同種を選好することが明らかとなったが、異種間の産卵も少数ながら観察され、これらの交配前隔離も不完全であることが示された。以上から、複数の不完全な交配前隔離が複合的に作用することにより、結果として強固な生殖隔離が維持されていると考えられる。


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