| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-150 (Poster presentation)
傷ついた植物が放出する匂いを周囲の健全な植物が感知し、食害を受ける前に抵抗性を持つ「植物間コミュニケーション」という現象がある。この現象は農業への応用が期待され、作物を雑草の匂いに暴露させることで、昆虫や病気に対する抵抗性を高めることが可能になる。また、トウモロコシではヨモギとセイタカアワダチソウの匂いに暴露することで、食害が減るだけでなく、分枝が増え、成長や収量に影響が出ることも示されている(Sakurai et al. 2023)。しかし、植物間コミュニケーションにはコストがかかると考えられ、抵抗性の誘導と成長との間にトレードオフがある可能性がある。しかし、これまでそのコストが検出された例はない。植物の適応戦略を理解する上でも、このコストの把握は重要である。我々は、植物間コミュニケーションのコストは食害以外のストレスがない環境では相殺されるが、他のストレスがある環境下では表出すると予想し、匂い暴露をしたトウモロコシを養分や水分の少ない環境で栽培し、成長への影響を観察した。その結果、すべての環境において匂い暴露により抵抗性が誘導されたが、ストレスがない環境では成長への影響は見られなかった。一方、ストレス環境下では匂い暴露の有無で成長に差が現れ、特に養分ストレス下では匂いを暴露した個体の成長が顕著に抑制された。これは、通常環境では表れないコストが、ストレス環境下では成長抑制として表出することを示している。したがって、匂い暴露による抵抗性の向上と成長にはトレードオフが存在すると考えられる。本研究は、ストレス環境下での植物間コミュニケーションの機能を示した。自然環境では複数のストレスが絡み合っており、防御応答の有効性やコストを理解することは、植物の適応戦略や群集動態の解明に不可欠である。