| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-151 (Poster presentation)
近年、飼料や食料としての昆虫の活用が注目されていることに関連して、昆虫を生産する上で排出されるフラス(糞や脱皮からなる老廃物)の肥料としての活用に関する研究が進んでいる。フラスによる施肥は、土壌微生物の活性化を通じて、細菌や植食性昆虫に対する植物の防御を高める効果を示すことが報告されている。さらに、フラスに含まれるキチンは、直接的に微生物に対する植物の免疫的防御を活性化することが知られている。この免疫はサリチル酸の蓄積で生じるが、サリチル酸の合成量は植食性昆虫への防御作用を示すジャスモン酸の合成量と拮抗することから、キチンには植食性昆虫に対する植物の防御を弱める作用がある可能性がある。しかし、土壌微生物の影響を除外した条件下でのフラスによる施肥が、植食性昆虫に対する植物の防御に及ぼす影響はこれまでに検討されていない。本研究では、ナス科の雑草であるイヌホオズキと、その葉を餌とするオオニジュウヤホシテントウを用いて、土壌微生物の関与を事実上排除した条件下におけるアメリカミズアブのフラスによる施肥が、植物の成長および昆虫の寄主植物としての質に及ぼす影響を検討した。化学肥料で施肥した化学肥料区、フラスで施肥したフラス区、いずれの施肥も行わない対照区を設け、イヌホオズキを栽培した。イヌホオズキの成長は化学肥料区で最も良好であった一方で、フラス区と対照区との間には差が無かった。繁殖量は、化学肥料区で最も大きかった一方で、フラス区と対照区との間には差がなかった。オオニジュウヤホシテントウの幼虫の成育に関しては、羽化率と蛹重では処理区間に差が無かったが、成育日数はフラス区で他の処理区よりもわずかに短くなった。成虫を用いた摂食実験では、明瞭な選好性および受容性の違いは検出されなかった。
以上の結果は、フラスに含まれるキチンが、植食性昆虫に対する植物の防御を弱める効果を持つことを示唆している。