| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-158  (Poster presentation)

ニホンザルの地域絶滅はヤマモモの実生更新に影響を与えるか? -種子散布距離の比較-【A】【O】
Does local extinction of Japanese macaques affect seedling regeneration of Morella rubra? -Comparison of seed dispersal distances-【A】【O】

*渡邉彩音(名古屋大学), 戸丸信弘(名古屋大学), 半谷吾郎(京都大学), 中川弥智子(名古屋大学)
*Ayane WATANABE(Nagoya Univ.), Nobuhiro TOMARU(Nagoya Univ.), Goro HANYA(Kyoto Univ.), Michiko NAKAGAWA(Nagoya Univ.)

ヤマモモは国内照葉樹林の主要構成種の1つであり、動物散布型の種子散布様式をもつ液果植物である。国内においてはニホンザルが主要な種子散布者であり、1950年頃にニホンザルが絶滅した種子島では、今でもニホンザルが生息する屋久島と比較して、動物によるヤマモモの種子散布量が激減していることが報告されている。そこで本研究では、種子島と屋久島においてヤマモモの種子散布距離を比較し、ニホンザルの地域絶滅がヤマモモの実生更新に与える影響を議論することを目的とした。
種子島と屋久島の各調査地で2021年から2024年に採取したヤマモモの葉からDNAを抽出し、マイクロサテライトマーカー19座を用いて遺伝子型を決定した。花の観察による個体の雌雄判別の結果から、各調査地の個体を母樹候補集団(種子島:152個体、屋久島:148個体)、父樹候補集団(種子島:143個体、屋久島:203個体)、子集団(種子島:116個体、屋久島:220個体)に分けて、近隣モデルアプローチで種子散布距離を推定した。また、個体間の親縁係数(Fij)を用いてコレログラムを作成し、空間遺伝構造の強さの指標Spを算出した。散布カーネルとして指数関数を用いて推定した平均種子散布距離は、種子島の調査地で11.1 m、屋久島の調査地で93.2 mと屋久島の方が長く、見た目の分布パターンが同様な両調査地で、森林の空洞化の影響が種子散布距離の違いとして検出された。また、種子島の子集団(Sp = 0.023)では、種子島の親候補集団(Sp = 0.003)および屋久島の子集団(Sp = 0.001)に比べて強い遺伝構造が見られ、特に0~50 mの範囲で近縁個体が集中していた。これは主要な種子散布者の喪失によって種子が遠くへ散布される機会が減少し、母樹の近辺に近縁個体が集中している状況を反映していると考えられる。このような近縁個体の集中は、競争や病虫害などを引き起こすと考えられるため、種子島では、ニホンザルの絶滅が実生の生残に負の影響を与えている可能性がある。


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