| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-161  (Poster presentation)

四国の着生植物と送粉者の相互関係【A】【O】
Mutual relationship between epiphytes and pollinators in Shikoku【A】【O】

*Toshifumi KOYAMA(Kochi Univ.)

 顕花植物の大部分が昆虫や他の動物によって受粉され、植物と花粉媒介者の相互作用は陸上生態系の重要な役割を果たしている。ラン科植物は顕花植物種のなかで多様な科の一つであり、その送粉生態も複雑に種分化している。
 着生ランの一種であるボウラン(Luisia teres)は日本において琉球諸島、九州、四国、本州にかけて分布しているが、四国におけるボウランの送粉に関する知見はない。本研究では、四国南部(高知県室戸市)のボウランにはどのような訪花昆虫が送粉に貢献しているのかを調べるため、開花期における観察調査、及び自動撮影カメラによる定点観察調査を行った。加えて訪花昆虫のサイズクラスごとの貢献度の差異を調べるため、網目のメッシュ幅が異なる網掛け実験を実施した。大きな網目では小型昆虫の訪花が可能であり、小さな網目では全ての昆虫の訪花を阻害することで、その後のボウランの結実率を比較した。
 観察とカメラ調査では、ムラサキツヤハナムグリ(Protaetia liocola cataphrat arrow)をはじめとする大型の甲虫種に加え、アリ目、ハチ目などの昆虫種の訪花が認められた。さらに、頭部にボウランの花粉塊が付着させたハナムグリ種の個体の捕獲にも成功した。また、網掛け実験における結果では結実果は開放区でのみ認められた。これらの調査によって本研究では、ボウランの結実には大型昆虫の送粉が必要であることを示した。さらに、訪花した甲虫は雌雄共に確認されたこと、擬似交尾行動が確認されなかったことから、ラン科植物で大別される「餌的だまし送粉」の可能性が示唆された。
 沖縄県においてボウランは特定種の雄成虫のみを誘引する特異的な送粉システムであったことに対して、本研究では広範な生物種を誘引する、より一般的な送粉システムであることが示唆された。鹿児島・岡山県で行われた調査結果と合わせると、本結果はボウランの繁殖戦略の地理的変異を支持する。


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