| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-163 (Poster presentation)
生物による送粉サービスは作物種の約7割の生産に貢献する。送粉には多様な野生昆虫からなる群集がしばしば関わっており、それらが異質性のある、変動環境下で相補的にはたらくことでサービスを高め、安定化することが知られている。行動・個体群動態などといった生物学的プロセスと、気象・気候のような環境要因は時空間スケールに依存して変化し、送粉サービスを階層的に駆動している。様々なスケールでサービスを維持するためにも、相補性のパターンは各階層で評価する必要がある。本研究は、ソバの送粉者群集を対象に、複数の時空間階層で種間の共分散と相関関係を分析することで、送粉サービス安定性の仕組みを解明することを目的とした。
まず地域的な種プール間での相補性を評価するため、文献をもとに群集組成の入れ替わりを可視化した。次に、局所、年・季節・日のスケールで評価するため、長野県南部を中心に約3年かけて収集した計116群集のデータを用いた。分散比検定で、分類群間の共分散の和が訪花数のばらつきを相補性により減少させているか(=負の共分散があるか)検証した。また、個体数の種間相関から、共分散に寄与する種の組み合わせを解明した。
時空間スケールや環境の背景によって群集の共変性は異なっていた。11地域の情報から、国内外でソバの送粉サービスが相補的であることが示唆された。同一地域内で、異なる季節に開花するソバの訪花者間では有意な相補性が検出された。同じ時期の異なる局所群集間では、時期によって有意な空間的相補性を持つ場合と、正の共分散を持つ場合が見られた。年変動においては有意ではない負の共分散が見られた。日変動のスケールでは、全体の傾向では正の共分散が見られたが、年や群集によって大きく変動していた。
階層横断的に送粉サービスを安定化するためには、各階層で相補的に働く多様な種を保全することが重要だと示唆された。