| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-164  (Poster presentation)

クモの網が植食者を介して植物に与える間接効果【A】【O】
Indirect effects of spider webs on plants via herbivores【A】【O】

*三嶋大翔(弘前大農学生命), 池本美都(弘前大農学生命, 国立環境研究所, 京大生態研センター), 横川寛太(弘前大農学生命), 橋本洸哉(弘前大農学生命, 国立環境研究所)
*Sho MISHIMA(Hirosaki Univ.), Mito IKEMOTO(Hirosaki Univ., NIES, CER, Kyoto Univ.), Kanta YOKOGAWA(Hirosaki Univ.), Koya HASHIMOTO(Hirosaki Univ., NIES)

捕食者は,植食者をはじめとした下位の栄養段階の生物を捕食して密度を減少させるほか,捕食のリスクを与えることで,被食者の行動などの形質を変化させる.植食者の密度や形質の変化が,植物の損傷を減らす場合,捕食者は植物に間接的に正の効果を与えると考えられる.このように,捕食者は群集の栄養段階構造を形成するうえで重要な機能を果たしていると考えられている.捕食者の機能に関する研究には,多くの地域にで一般的にみられる捕食者であるクモがよく用いられてきたが,その重要な特性である「網」に着目した研究は少ない.クモ無しでも,クモの網により小型の植食者が死亡することなどが知られており,網そのものもクモ同様に植食者の密度や形質を変化させ,植物に正の効果を与える可能性がある.
そこで,陸域の三栄養段階相互作用におけるクモの網の役割を解明することを目的として研究を行った.具体的にはクモの網が植食者の行動形質および,植物の現存量に与える影響を検証するため,室内飼育実験と共通圃場実験を行った.
室内飼育実験では,クモの網を掛けたリーフディスクを植食者に提示し,その被食率を無処理のものと比較した.その結果,処理間で平均値に有意差はなく,クモの網は植食者の摂食行動に大きな影響を与えないことが分かった.
共通圃場実験では,ポットに植えた植物に1:植物のみ,2:植物+植食者,3:植物+植食者+網,4:植物+植食者+網+クモの4つの処理をランダムに割り当て,実験開始前と2週間後との植物現存量の変化を処理間で比較した.その結果,処理2でのみ植物現存量が有意に減少しており,処理3,4では現存量の有意な減少が見られなかったことから,クモや網は植物の現存量減少を抑制することが示唆された.
これらの2つの実験結果から,クモだけでなく網そのものもまた,植食者を介して,間接的に植物に正の影響を与える可能性が示唆された.


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