| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-165 (Poster presentation)
クマ類による長距離種子散布は植物の分布域拡大に寄与し、森林の維持や形成に貢献するとされる。しかし、日本におけるヒグマによる液果の周食型種子散布に関する研究は少ない。また、既存のクマ類の種子散布研究で、採食イベント毎の散布距離を算出した研究はない。本研究は、より正確にヒグマの液果類の種子散布距離を推定する新たな手法の開発を試み、散布距離の変化の要因を探ることを目的とした。北海道知床半島西側の海岸においてヒグマに装着したカメラ付GPS首輪を用いて、採食イベント発生地点から液果類の腸内滞留時間内に移動した地点間の距離(推定散布距離)、採食後の標高移動、散布方位を算出し、それらと液果種、採食月の関係を解析した。一般化線形混合モデルの結果から、サルナシとヤマブドウの採食が多いほど種子散布距離は短くなった。また、各採食イベントから散布までの期間に行った行動(採食イベント内行動)のうち、休憩の割合が増えるほど種子散布距離は短く、移動の割合が増えるほど種子散布距離が長くなることが示された。サルナシやヤマブドウは同じ採食地点を短期間に繰り返し利用することが多いため、散布距離が短くなった可能性がある。散布後の標高移動については、サルナシとヤマブドウの採食が多いほど、また、採食イベント内行動で休憩と採食の割合が増えるほど、高標高に散布される可能性が高まった。一方で、採食イベント内行動で移動の割合が増えるほど、低標高に散布される可能性が高まることが示された。さらに、種子散布される方位は、知床半島は北東方向に延びているのに対して、6-8月は北東の頻度が高く、8-10月は南西-北西の頻度が高かった。これは、夏には海岸付近の林縁でのサクラ類の葉や液果、イタヤカエデの葉の採食機会が増加し、秋はサケ科魚類の遡上に伴って森林内で液果類を採食した後に海岸方向への移動が増えることが影響している可能性がある。