| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-166 (Poster presentation)
寄主植物の現存量や質(栄養や二次代謝物質)の時空間的な変異は、植食者の生存や繁殖に影響を与え、植食者の資源利用戦略に影響する。複数の寄主植物を利用する植食者は、植物種ごとの量や質の季節変化に応じて、利用する寄主植物を変えることがある。そこで本研究では、植食者の植物種利用が季節的に変化するメカニズムを明らかにすることを目的として、植物側の要因(質の季節的変化)と植食者側の要因(環境ストレスに対する応答)を実験的に分離して検証した。対象種として、春にエゾノギシギシ(以下、ギシギシ)を好み、夏にミゾソバを好むことが明らかになっているジェネラリスト植食者のイチゴハムシと、これら2種の食草を用いた。イチゴハムシの1齢幼虫に十分な餌を与える処理と絶食処理を設定し、7月と8月に野外で採取した植物の葉を与えて羽化するまで飼育した。これにより、植物の季節的な質の変化と絶食経験が幼虫パフォーマンスおよび成虫の餌嗜好性に及ぼす影響を評価した。その結果、幼虫の死亡率は7月から8月にかけてギシギシを十分に与えて飼育した場合で上昇し、ミゾソバでは下降していた。一方、絶食処理においては植物を採取した時期によって死亡率に差が見られなかった。幼虫期間、幼虫期の摂食量は、ギシギシを十分に与えて飼育した場合で7月よりも8月の方が大きい傾向が見られた。また、成虫の餌嗜好性に関して、成虫は餌を十分に与えた場合では7月8月共に植物に対する嗜好性を示さず、ミゾソバを用いた場合の絶食処理のみギシギシへの嗜好性を示すようになった。以上の結果から、イチゴハムシにおいて、植物の質の季節的変化は成虫の餌の嗜好性には影響しないものの、幼虫パフォーマンスに影響することで植食者の適応度を左右する可能性が示唆された。一方、幼虫時の絶食は主に成虫の餌嗜好性に影響して利用する植物種の変更を促す可能性が示唆された。