| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-170 (Poster presentation)
ヒメシロチョウLeptidea amurensis(シロチョウ科:以下,本種)は,国内では北海道,本州,九州に分布し,基本的にツルフジバカマVicia amoena(マメ科:以下,寄主植物)を唯一の寄主植物とする.本種は環境省レッドリストにおいて絶滅危惧IB類に選定されている.本種の衰退要因についてはさまざまな要因が考えられるが,本研究ではその一つとして寄主植物の衰退に着目した.
過去に本種の生息記録があった地点を中心に日本各地の25カ所と,本種が元々生息しない大阪府1カ所において、寄主植物の5~10の群落を選び,花序の数と花序ごとの莢の数(着果数)を記録した.本研究では,莢ができた花序の割合を結果率とした.また成熟した莢を採集し,健全な種子としいなに分け,個数を記録した.健全な種子が入った莢の割合を結実率とした.さらに種子を播種して発芽率を調査した.寄主植物がまとまって開花していた9カ所では,訪花したハチ類を採集し,持ち帰って花粉の付着の有無を確認した.
野外調査の結果,19カ所で本種が確認された.寄主植物の結果率は,全体で0~100%,結実率は0~98%となり,地域間の差が大きかった.発芽率は28~100%となり,結果率や結実率と比較して高い値であった.25種のハチ類の訪花が確認され,これらのうち18種の体表から寄主植物の花粉が確認された.訪花頻度は,多い地点でも1時間あたり5個体程度であった.花粉が確認されたのはすべてハナバチ類であり,それらの中でもハキリバチ科が種数,個体数ともに多かった.
本研究の結果,寄主植物の結果率または結実率は一部の地域で著しく低かった.寄主植物のポリネーター候補と考えられたハナバチ類は,限定的な種で構成されており,これらのハナバチ類の衰退によって寄主植物が減少し,本種も衰退した可能性があると考えられた.