| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-172 (Poster presentation)
植食者の大発生は、寄主植物を中心とする生物群集に多大な影響を及ぼす。とりわけ外来種は、侵入地における天敵の不在などにより大発生することがしばしばある。伊豆諸島南部では、2000年頃からスダジイ花序に虫えいを形成するスダジイタマバエ(以下、本種)の大発生が続いており、スダジイの結実がほとんど見られない状態が続いている。本種は本州・伊豆諸島・九州・南西諸島に生息しており、伊豆諸島の個体群は比較的最近南西諸島から侵入したことが示唆されており、伊豆諸島では天敵である捕食寄生蜂の不在などが大発生の要因として指摘されている。また、伊豆諸島から本州にかけて、本種の分布域が北進していることも示唆されている。加えて、近年、韓国南部の離島においても本種が発見された。本研究では、これまで各地で採集・報告された本種のDNAバーコーディング領域の遺伝子型を比較することにより、分布拡大過程を推定した。本種の遺伝子型は、(1)韓国・九州(日本海側離島部含む)と、(2) 本州・伊豆諸島・南西諸島とに大別された。(1)の中では九州では複数のハプロタイプが確認されているものの、韓国では1つしか報告されておらず、そのタイプは九州でも確認された。 (2)では、南西諸島で複数のハプロタイプが確認されたのに対し、本州や伊豆諸島では2種類しか確認されず、どちらも南西諸島と共通であった。一連の結果から、九州と南西諸島では、以前からスダジイタマバエが生息していたことが示唆され、伊豆諸島や本州の個体群は、南西諸島からの移入起源であることなどが再確認された。また、韓国では、1カ所での調査しか実施されていないため、近年の侵入か、以前から生息していたのかを結論づけるためには今後のより詳細な調査が必要である。