| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-174 (Poster presentation)
放牧は乾燥地における重要な生業であるが、社会経済システムの変容などにより、近年家畜頭数が増加し、過放牧による草原劣化が懸念されている。持続的な草原利用を実現させるためには、放牧地における家畜行動と草原植生の関係性を理解する必要がある。しかし、その関係性について、植生の不均質な空間分布を考慮した知見は限られている。本研究では、モンゴル放牧地における①植生の量と種組成が家畜の移動・採食に与える影響と、②家畜の移動・採食が植生量の変化に与える影響を空間明示的に明らかにすることを目的とした。
2022年6~8月、モンゴル中央部の約8km四方の放牧地を対象とし、まず植生量の空間分布を把握するため、7枚のLandsat画像からNDVI(正規化植生指数)を算出した。次に、種組成の空間分布を明らかにするため、植生調査の内容を優占種判別に絞り、車で移動しながら広範囲を短時間で調査する手法によって、計7768コドラートのデータを取得した。さらに、優占種ごとの栄養価を測定し、各種の家畜嗜好性も文献から収集した。また、GPS装置と顎運動を記録する装置をヒツジに取り付け、家畜群の移動や採食回数を約2か月間記録した。以上のデータを30mグリッドで統合し、植生指標(量・栄養価・家畜嗜好性)と放牧圧指標(家畜の歩行距離・滞在時間・採食回数)を集計して、植生と家畜が互いに与える影響を一般化線形混合モデルで分析した。
その結果、①の分析では家畜が通過したグリッドで全ての植生指標が周囲に比べ有意に高く、家畜は植生状態が良好な場所を選択・移動していることが示された。②の分析では、家畜が通過したグリッドで植生増加量が約9%抑制され、さらに放牧圧指標が高いほど植生増加量が有意に抑制される傾向にあった。ただし、翌年以降の同時期の衛星画像を解析したところ、植生量の減少は見られず、影響は短期的であることが示唆された。